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東京地方裁判所 昭和38年(行)52号 判決

原告 日経商事株式会社

被告 墨田税務署長

訴訟代理人 片山邦宏 外三名

主文

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告の求める裁判

1、被告が原告に対し昭和三七年三月三〇日付墨法法特第二四三号をもつてした原告の昭和三五年一一月一日から昭和三六年一〇月三一日に至る事業年度の法人税額等更正処分中、法人税額六四一、八〇〇円を超える部分を取り消す。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の求める裁判

主文と同旨。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)  原告は、昭和三六年一二月二九日被告に対し昭和三五年一一月一日から昭和三六年一〇月三一日に至る事業年度(以下本件事業年度という。)分の所得金額を二、一一五、〇〇九円、法人税額を六三六、六一〇円とする納税申告をしたが、被告は昭和三七年三月三〇日付墨法法特第二四三号をもつて原告の本件事業年度の所得金額を五、〇〇九、五〇〇円、法人税額を一、六三五、五九〇円とする旨の更正処分(以下本件更正処分という。)をした。そこで、原告は、被告に対し昭和三七年四月二六日再調査の請求をしたけれども同年六月二三日請求を棄却されたので、同年七月二一日東京国税局長に対し審査の請求をしたが、右請求は昭和三八年三月一五日棄却され、右決定は同月一八日原告に通知された。

(二)  しかしながら、本件更正処分により申告所得金額より増額となつた所得金額中一四、五〇〇円は原告が誤つて申告所得金額より漏らしたものであるから、本件事業年度の原告の所得金額は前記申告所得金額に右一四、五〇〇円を加えた二、一二九、五〇〇円であり、また法人税額は前記申告法人税額に右所得金額の増加に伴う税額増加分五、一九〇円を加えた六四一、八〇〇円である。

(三)  よつて、原告は、本件更正処分中、法人税額六四一、八〇〇円を超える部分の取消しを求める。

二  被告の答弁と主張

(一)(1)  請求の原因(一)は認める。

(2)  請求の原因(二)および(三)は争う。本件事業年度の原告の所得金額および法人税額は、後に述べるように原告主張の額にとどまらない。

(二)  原告は、肩書住所地に本店を有する株式会社であるが、

(1) まず、原告会社関係者が、業務執行につき交通法規違反をなし、このため課された罰金一四、五〇〇円を雑支出として損金に算入して申告しているのは誤りである。

(2) つぎに、(イ)原告は、本件事業年度中東京都新宿区角筈三丁目一五五番地の一宅地四二坪四合二勺の土地(以下本件土地という。)を新宿副都心建設公社に譲渡し、右宅地の譲渡代金一三、七六〇、〇〇〇円および同所所在家屋番号同町一五五番の四木造瓦葺二階建居宅兼店舗一棟建坪三九坪九合二勺二階六坪の建物(以下本件建物という。)移転の補償金三、七四〇、〇〇〇円合計一七、五〇〇、〇〇〇円の支払いをうけた。そして、右のうち五、七六〇、〇〇〇円が本件土地の譲渡益である。しかるに、原告は租税特別措置法第六五条の二の適用がある場合であるとして右譲渡益の二分の一である二、八八〇、〇〇〇円を損金に算入したうえ所得金額と法人税額を算出して申告した。

(ロ)しかしながら、原告は、不動産の売買および取得、不動産売買のあつせん等を主たる事業目的とする会社であり、本件土地および建物をも販売の目的をもつて所有していたこと、換言すれば本件土地および建物が商品であつたことは明らかである。すなわち、原告は本件土地および建物が新宿副都心建設公社の副都心建設のための事業計画区域内にあり買収予定地であることを熟知したうえで、それらを公社に転売する意思で取得し、所有していたものである。したがつて、本件土地は法人税法第九条の七第一項に規定するたな卸をなすべき資産に該当するので租税特別措置法第六五条の二、第六四条による損金算入は認められない。

(3) 右のとおり、本件事業年度の原告の所得金額は、原告の申告所得金額に(1)(2)に述べた誤つた損金算入額の合計二、八九四、五〇〇円を加えた五、〇〇九、五〇〇円であり、法人税額は一、六三五、五九〇円である。

被告が本件更正処分をしたのは以上のような理由によるものであり、本件更正処分には何らの違法もない。

三  被告の右主張(二の(二))に対する原告の答弁

(一)  被告の主張二の(二)の冒頭および(1)は認める。原告も、罰金についてはその取扱いを誤つていたことを認めているので本件更正処分の全部取消しを求めていないのである。

(二)  被告の主張二の(二)(2)の(イ)は認める。同(ロ)中、原告は、本件土地および建物を取得する際、本件土地および建物が新宿副都心建設公社の副都心建設のための事業計画区域内にあり、買収される予定のものであることを知つていたことは認めるが、その余は争う。原告会社は、定款には金銭貸付の電話加入権売買等のほか不動産の売買および取得、不動産の売買あつせんをも会社の目的として掲げているが、実際には金銭貸付および電話加入権売買を業としており、従前、不動産の売買及び取得、売買あつせんを業としてしたことはない。本件土地および建物に関して説明すると、新宿副都心建設公社の右事業計画に対してはその計画区域内の土地所有者の反対が強く、計画実現の時期はいつになるかわからないような状態であり、少なくとも数年の間は本件土地建物において営業することができるという見込みであつたので、これを原告会社の「新宿支店」とする目的で取得したものであり、また実際にもこれを原告会社の「新宿支店」として営業活動を行つていたのである。したがつて、本件土地および建物は、原告会社の固定資産であつて商品ではない。しかし、公社の買取申出には抗すべくもなく、かりに譲渡を拒否しても早晩収用さるべき運命にあつたので譲渡したのである。したがつて、本件土地(および建物)は法人税法第九条の七第一項のたな卸をなすべき資産には該当せず租税特別措置法第六五条の二により前記譲渡益五、七六〇、〇〇〇円の二分の一である二、八八〇、〇〇〇円の損金算入を認めらるべきである。

(三)  被告の主張二の(二)(3)は争う。すなわち、被告の主張するように前記譲渡益の二分の一の損金算入が認められないとすれば所得金額と法人税額が被告主張の額になることは認めるが、すでに述べたように右損金算入は認められないとする被告の主張は誤りなのである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一、争いのない前提事実

請求の原因(一)は当事者間に争いがない。

二、本件更正処分の適否

原告の本件事業年度の申告所得金額は二、一一五、〇〇九円、申告法人税額は六三六、六一〇円であるのに対し本件更正処分は所得金額を五、〇〇九、五〇〇円、法人税額を一、六三五、五九〇円としたものであることについて当事者間に争いがないことは前記のとおりであり、原告は肩書住所地に本店を有する株式会社であることも当事者間に争いがない。

そこで、被告が増額更正をした理由として主張している点を順次検討する。

(一)  罰金の所得計算上の取扱いについて

原告会社関係者が会社の業務執行に関し犯した交通違反のため課された罰金一四、五〇〇円につき原告はこれを雑支出として損金に算入して所得計算をして申告しているがこれは誤りであるとの被告の主張は、原告の認めるところであり、所得計算上罰金を損金に算入すべきでないことは法律上当然である(法人税法第九条第二項参照)から、右一四、五〇〇円は申告所得金額に加算さるべきである。

(二)  譲渡益の所得計算上の取扱いについて

原告は、本件事業年度中、本件土地を新宿副都心建設公社に譲渡し、本件土地の譲渡代金一三、七六〇、〇〇〇円および本件建物移転の補償金三、七四〇、〇〇〇円合計一七、五〇〇、〇〇〇円の支払をうけたこと、右のうち五、七六〇、〇〇〇円が本件土地の譲渡益であること原告は租税特別措置法第六五条の二の適用がある場合であるとして右譲渡益の二分の一である二、八八〇、〇〇〇円を損金に算入したうえ所得金額と法人税額を算出して申告したことは当事者間に争いがない。

そこで、右譲渡益につき租税特別措置法第六五条の二第一項、第六四条を適用して二分の一の損金算入が認められるかどうかについて検討する。

右譲渡が行われたのは、原告が公社による本件土地の買取りを拒むときは土地収用法の規定に基づいて収用されることとなる場合であつたことは証人高橋惣蔵の証言および弁論の全趣旨により明らかである。

そこで、被告の主張するように本件土地は法人税法第九条の七第一項に規定するたな卸をなすべき資産に該当するかどうかについて考えてみるのに、不動産の売買等を業とする者が販売の目的をもつて所有する不動産はこれを商品とみるべきであり、法人税法第九条の七第一項に規定するたな卸をなすべき資産に該当すると解すべきであるから、本件の場合も第一に原告は不動産の売買等を業とする者といえるかどうか、第二に原告が本件土地を所有していた目的は販売の目的であつたかどうかが問われなければならない。

まず、原告会社の営業についてみるに、成立に争いのない甲第一号証、同第七号証乙第九号証、証人三保俊博の証言により成立の認められる乙第一〇号証、証人大久保英治、同三保俊博の各証言を総合すると、原告会社は金銭貸付、電話加入権売買、不動産の売買および取得、不動産の売買あつせん等を会社の目的として登記しており、かつ実際にもこれらを業として営んでいたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

つぎに、原告が本件土地を所有していた目的についてみるに、成立に争いのない乙第一号証、同第二号証、同第三号証、同第五号証ないし第八号証、同第九号証、同第一一号証、証人加藤次男の証言により成立の認められる乙第四号証、前掲乙第一〇号証ならびに証人寺島徳次、同三保俊博、同高橋惣蔵の各証言を総合すると、本件土地はもと訴外椋田千代子の所有であり、また本件建物は訴外椋田久雄の所有であつたが、昭和三五、六年ころ右椋田久雄、同千代子と当時原告会社の代表取締役であつた訴外高橋惣蔵との間に三、五〇〇、〇〇〇円の金銭貸借をめぐつて紛争が生じ、昭和三六年六月二二日裁判上の和解により右高橋惣蔵が本件土地および建物を譲り受け(代金は土地が八、〇〇〇、〇〇〇円、建物が四、五〇六、六二〇円。ただし、建物代金は高橋が椋田久雄に対し金銭消費貸借に基づく建物代金と同額の元利、損害金債権を有するものとしてこれをもつて相殺。)、その所有権を原告に移転し同年七月三日椋田両名から直接原告へ同年七月一日付売買を原因とする所有権移転登記手続をしたこと、本件土地は新宿副都心建設公社の副都心建設のための事業計画区域内にあり、昭和三六年四月ころから公社と椋田との間に買収交渉がなされており、高橋もこの間の事情を熟知し、和解の際も本件土地が公社に買収された場合買収金額の多寡につき異議を述べない旨椋田に約させていること、原告が本件土地および建物の所有権を取得するや、右高橋(当時原告会社代表取締役)は関係書類を持参のうえ公社に赴き、公社の係員に対し本件土地等の買収についての交渉は自分として貰いたい旨申し入れ、交渉が行われた結果、同年七月一七日ころ交渉がまとまり、「本件土地の売買代金および本件建物の移転補償金を合計一七、五〇〇、〇〇〇円とする。原告は昭和三六年七月三一日までに地上物件を収去して土地を引渡す」等のことを定めた覚書が原告側高橋と公社側湯浅参事との間に交換され、同年七月二九日には正式に売買契約書および移転補償契約書が作成されたこと、その間七月一九日ころから本件建物の解体工事がはじめられ同月二八日ころには解体工事が完了したこと、当時公社による本件土地一帯の買収の計画に対しては土地所有者の反対運動がはげしく買取りが進捗していなかつたが原告のみが買取りに応じたこと、さらに、原告会社備付の総勘定元帳には、本件土地、建物は、固定資産としてではなく、流動資産のうちの不動産なる科目に記載されていたこと(甲第八号証には右のような記帳がなされたのは原告会社の経理担当者の不注意によるものである旨の記載があり、また証人高橋惣吉も同趣旨の証言をしているが、採用できない)がそれぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実関係からすると、原告は本件土地が公社に買い取られることを予想しこれをできるだけ多くの利益を得て売却しようとして取得所有していたとみるのが相当である。原告は、公社の買取りに応ぜざるをえなくなるまでにはなお日時があり、少くとも数年間は本件土地で営業できると思い原告会社の新宿支店として利用する目的で本件土地および建物を取得し現にこれを利用して営業していたから本件土地は原告にとつて商品でないと主張する。原告主張の写真であることにつき争いがない甲第四号証の一、二、前記乙第八号証、同第一一号証、証人大久保英治、同藤原保良、同高橋惣蔵の各証言を総合すると、原告は昭和三六年七月一日ころ本件建物に入居し本件建物に「日経商事株式会社新宿支店」という看板を掲げ、机、椅子をおき同月一九日ころ本件建物が解体されるまで営業活動をしたことが認められるけれども、前記認定の事実関係に照らして考えると、これは公社との交渉や課税等の関係で自己の立場を有利に導くための偽装工作であることがうかがわれるのみならず、かりにそうでないとしても原告は本件土地を公社に売り渡すまでの間一時的に利用しようとしたに過ぎないと認めるのが相当である。

したがつて、本件土地は、原告にとつて商品であつたと認めるのが相当であり、法人税法第九条の七第一項に規定するたな卸をなすべき資産に該当するといわざるをえない。それ故本件土地の譲渡益につき租税特別措置法第六五条の二第一項、第六四条の適用による二分の一の損金算入は認められず、原告が申告に際して所得計算上損金に算入した二、八八〇、〇〇〇円は申告所得金額に加算さるべきである。

そして、右損金算入を認められない場合には所得金額と法人税額が被告主張の額になることは当事者間に争いがない。

そうだとすれば、本件更正処分は違法ではない。

三  むすび

以上のとおり、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高林克巳 桜林三郎 小笠原昭夫)

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